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――「おとうと」への出演が決まったとき、どんな気持ちでしたか?
加瀬亮:まず、「大丈夫かな」と思いましたし、「なんとなく馴染めるのかな」という不安もありました。監督が初日に「ただそこに居てくれればいいから」って声をかけてくださって、それで随分気持ちが楽になりました。
――不安とは?
加瀬亮:やっぱり山田監督独特の世界があるので、その世界に参加させていただいて、単純に1人だけなんか調子が合っていないとか、そういう迷惑のかけ方はしたくないと思っていました。 |
――今回は、蒼井優さん扮する小春を密かに想い続けていた幼馴染で大工の亨という役でした。役づくりはされましたか?
加瀬亮:特にしていませんが、監督の知り合いの方で亨のモデルになった方がいらっしゃって、写真を見せていただいたり、その方を知る監督が非常に面白いと思ったことなど、お話を聞かせていただきました。 |
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――亨を演じられる加瀬さんは、これまでの役柄とは違う印象でした。
加瀬亮:今の僕からしたらみんな遥かに健全で、それは演じてみるとわかるのですが、亨に関して言えば男らしい感じがしましたね。でも、自分の中にはそういう部分がなくて……(笑)。不思議な体験をたくさんしました。
――不思議な体験とは?
加瀬亮:例えば、蒼井さんは以前にも共演したことがあったので、最初はすごく照れくさかったです。きっと、今でも亨のような人たちはいるのでしょうけど、今の僕からしたら告白の仕方ひとつをとっても、すごく遠く感じましたね。
――演じるのに苦労しましたか?
加瀬亮:亨は自分より上の世代の方が描いた青年なので、自分の感覚とのズレがあって当然。世代が違うことで、良いことも正しいことも大事なことも確実に違うんです。僕の中ではそのズレが面白かったです。
――どんな風に?
加瀬亮:言われていることに耳を傾けてみたり、対話をしてどうするかを考える。年下の方でもそうなのですが、年配の方と一緒に何かをするっていうのは、未体験ゾーンに入るというか……すごく面白いことなんですよね。 |
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夫を早くに亡くした高野吟子(吉永小百合)は、東京の私鉄沿線の商店街の一角にある高野薬局を営みながら、一人娘の小春(蒼井優)と、義母の絹代(加藤治子)の3人で暮らしている。吟子が女手ひとつで育てた小春とエリート医師との結婚が決まり、一家は幸せの頂点にあった。しかし、結婚式の当日、音信不通になっていた吟子の弟、鉄郎(笑福亭鶴瓶)が突然披露宴に現れる。兄の庄平(小林稔侍)に「酒を飲むな」と注意されたにも関わらず、我慢できずに酒を一気飲みした鉄郎は、酔っ払って披露宴を台無しにしてしまう。激怒する身内の中、鉄郎をかばうのは吟子だけだったが、ほどなくして小春が離婚。その後起こった“ある出来事”をきっかけに、吟子は鉄郎に絶縁を言い渡す。肩を落として出ていく鉄郎の背中に不吉な予感を覚える吟子だったが……。
「家族」、「幸福の黄色いハンカチ」、「息子」、「学校」シリーズ、そして、「男はつらいよ」シリーズ……いつの時代も変わらない家族の絆を描く一方で、社会が抱える問題を作品を通して人々に問いかけてきた山田洋次監督。そんな山田監督が「十五才 学校IV」以来、10年ぶりの現代劇となる今作でクローズアップした問題は、余命いくばくもないことを宣告された患者に対して、延命のための治療を行うのではなく、不安をやわらげ、残された人生をより充実させることに重きを置く「ターミナルケア」。高齢化社会を生きる私たちにとって重大なテーマでもある。東京で堅実に生きてきた姉と、大阪で何かと問題ばかりを起こしてきた弟との再会と別れ――。「おとうと」は、笑いと涙、そして、希望をくれる感動作に仕上がっている。
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おとうと
2010年1月30日(土)全国ロードショー
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、平松恵美子
出演:吉永小百合、笑福亭鶴瓶、蒼井優、加瀬亮、小林稔侍、森本レオ、茅島成美、ラサール石井、佐藤蛾次郎、池乃めだか、田中壮太郎、キムラ緑子、笹野高史、小日向文世、横山あきお、近藤公園、石田ゆり子、加藤治子
上映時間:2時間6分
配給:松竹
(C)2010「おとうと」製作委員会
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――好きな女性のタイプは?
加瀬亮:色々な方をきれいだと思いますし、色々な方をきれいじゃないとも思います(笑)。タイプっていわれても自分ではあまりわからないですが、基本的には元気で根が明るい方が好きです。
――元気で根が明るい人ですか。
加瀬亮:去年、「扉をたたく人」という映画を観て、主人公の2人がおじさんとおばさんで、そのおばさんがヒアム・アッバスという女優さんなんですけれども、最初に登場したときには、地味そうだと思ったんですが、観ていると、ものすごく引き寄せられて、最後には「なんて綺麗な人なんだ」と思っていたのですが……まぁ、そんなことがありました(笑) |
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――どんな映画を好んで観ますか?
加瀬亮:年齢や時期によって変わりますが、最近はドキュメンタリーを観ることが多いですね。
――お勧めのドキュメンタリーを教えてください。
加瀬亮:ずっと好きなのはペドロ・コスタ監督の作品。「ヴァンダの部屋」を観てから好きになって、実際、監督本人にもお会いしました。「コロッサル・ユース」もそうですけど、あの監督の作品は励みになります。 |
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――今、加瀬さんは、とても忙しいと思うのですが、役者をしていて辛いとき、自分をどうコントロールされていますか?
加瀬亮:偶然観た映画とか、それこそペドロ・コスタ監督の映画とか、人との出会いによって、なんとかつなぎとめられたり、思い直したり、見直してみようかなと思ったり……。そういう時は、本当にグルグルグルグルしています。
――辛いことがたくさんありますか ?
加瀬亮:基本的に辛いですね。それでもたまに良いことがある。良いことは、演じている瞬間に訪れるときもありますが、ほとんどの場合は、「こういう暮らし方もあるのか、こんな生き方があるのか」と気づかせてくれる人との出会いです。でも、どんな仕事も辛いときってありますよね。 |
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1974年神奈川県生まれ。2000年に石井聰亙監督の「五条霊戦記」で映画デビュー。熊切和嘉監督の「アンテナ」(04年)をはじめ、高田雅博監督の「ハチミツとクローバー」(06年)、クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」(06年)などに出演。07年に主演した周防正行監督の「それでもボクはやってない」では、日本アカデミー賞優秀主演男優賞など数々の賞に輝き、日本映画界屈指の実力派俳優へ。09年には、山田太一脚本の「ありふれた奇跡」で連続ドラマに初めて出演した。 |
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――吉永小百合さん、笑福亭鶴瓶さんと共演されていかがでしたか?
加瀬亮:2人とも本当に気さくな方でした。お会いしたら、もっと緊張してしまうのかなと思っていたのですが、実際はそこまで緊張することはありませんでした。でも、後で考えると監督も含めた先輩方の大らかさとか、気遣いがあったから、緊張もせずに現場に居られたんだと思います。
――笑福亭鶴瓶さんが「現場には(自分より)年上の人ばかりで楽しかった」と、会見で公表していましたね。
加瀬亮:そうですね。スタッフも含めて自分たちが時間をかけて学んだことを何も知らない僕みたいな若い世代にも伝えようとしてくださっているのをすごく感じました。
――加瀬さんも楽しかったですか?
加瀬亮:待ち時間がたくさんあって、監督やスタッフの方々が色々な話をしてくださるんです。「あの人は天才だと言われていたけど、本当はすごく努力家だった」とか。そういう話も聞かせてくださって、とても面白かったです。
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――笑福亭鶴瓶さんが演じた鉄郎をどう思いますか?
加瀬亮:僕はみんながきちんとしていると窮屈に感じるので、ああいう人が入ってきて崩してくれた方がいいタイプですね。祖父のお葬式のときに会ったことがない親戚も集まっていて、1人だけはちゃめちゃなおじさんがいて結構嬉しかったです。でも、実際に弟や身近にいたとしたら、大変だと思いますね。
――吉永小百合さんの吟子については?
加瀬亮:お姉さんは普段、弟を突き放している部分もあるでしょうし、どこかで罪悪感を感じていてるからこそ、色々な気持ちが混ざって世話を焼いているのだと思います。撮影中はきれいごとだと思っていましたけど、完成した映画のラストシーンで吉永さんの背中を観たときに、なんだか全てがしっくりきました。
――完成した映画をご覧になって、いかがでしたか?
加瀬亮:ラストシーンの吉永さんの背中は本当に観られて良かったですし、加藤治子さんもすごく印象に残りました。ずーっと先を歩いている方々がどういうことを感じているのだろうとも思いましたし、どこかで自分が年を重ねていくっていうのを考えながら観ていました。色々なことに気づかされたりしながら、ラストはすごくあったかい気持ちになれましたね。
――ありがとうございました。 |
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撮影:江草直人 ヘアメイク:宮田靖士(VaSO) スタイリスト:林道雄
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